100年以上続くじゃがいも農家を営む石原さん。時代のニーズに応じた品種選びや自然の力を活かす栽培にこだわり続ける一方で、持続的なじゃがいも生産における課題と向き合っています。
今回は石原さんへ、持続的なじゃがいも生産を実現するための取り組みについて、詳しくお話を伺いました。
プロフィール
北海道・女満別地区 石原 新太郎さん
四国から北海道女満別地方に入植して100年以上続くじゃがいも農家を家族で営む。じゃがいもはカレーや肉じゃがだけでなく、さまざまな料理に活用できる点が魅力。好きな品種は「ピルカ」で、なめらかな食感と、貯蔵によって引き出される強い甘みに感銘を受けたという。
じゃがいも育成への探求
100年前、女満別地方でどうしてじゃがいも栽培を始めたのでしょうか。
石原さん:
明治時代、女満別周辺は片栗粉の製造が盛んだったため、片栗粉用原料としてじゃがいも栽培を始めました。当時は貯蔵技術が未発達で本州への輸送が難しく、収穫後すぐに加工する必要があったため、家庭でそのまま食べる文化はまだ一般的ではありませんでした。流通技術が発展し、そのまま食べる文化の普及とともに「そのまま食べてもおいしい品種」へ徐々に切り替わっていきました。
「じゃがいもをそのまま食べる文化」が広がり、石原さんはどのように対応されましたか?
石原さん:
初めは認知が高い「男爵薯」や「メークイン」に切り替えましたが、現在は多様な用途別品種も栽培しています。また持続的にじゃがいもを生産する上で、早くから病害虫に対して抵抗性のある品種を試験的に栽培してきました。その一つが「ピルカ」です。
石原さんが感じる「ピルカ」の魅力を教えてください。
石原さん:
おいしさでは貯蔵すると滑らかな食感になり甘さも増すので、スイーツにも応用できるのではないかと感じるほど高いポテンシャルを感じます。花もラベンダーのような紫で綺麗です。
石原さんが多くのじゃがいも品種を栽培するなかで、大事にしているこだわりを教えてください。
石原さん:
こだわりは極力薬剤に頼らず、じゃがいも本来の「生きる力」を信じて自然の力を活かす栽培を目指すことです。さらに各品種に合った独自の栽培スケジュールで夏場の光合成を促し、太陽の恵みによっておいしさの源となる旨みをじっくり蓄積させることです。
持続的なじゃがいも生産におけるリスク
持続的なじゃがいも生産をする上で、日本では特にジャガイモシストセンチュウ※への対策が課題となっています。この病害虫の影響を教えてください。
※ジャガイモシストセンチュウとは、じゃがいもの根に寄生して養分を吸う病害虫のこと。
石原さん:
一般にはあまり知られていませんが、植物の生育を阻害し収量を大きく低下させる病害虫です。特に厄介なのは、農薬で防除しても「シスト」と呼ばれる卵が土中に残り、数年にわたって悪影響を及ぼし続ける点です。この病害虫の対策として最も有効なのは、抵抗性のある品種へ切り替えていくことだと考えています。
抵抗性がある品種への置き換えは、どのように進められたのでしょうか?
石原さん:
まずは小規模な試験栽培から始めました。当初は男爵薯に比べて植物の成長が遅く不安もありましたが、じゃがいもを収穫してみるとサイズが揃っており、貯蔵中に芽も出にくいといった利点もありました。これなら置き換えられると確信し、徐々に栽培面積を広げていきました。抵抗性がある品種の価値は自分で育ててみなければ分からないため、「まずはやってみる」という挑戦心を大切にしています。
持続的なじゃがいも生産を続けるには他にどのような課題がありますか?
石原さん:
これからの日本のじゃがいも産地には、主に2つの課題があると思います。
1つ目は、質の高い種いもが手に入りづらくなっていることです。農家の減少を食い止める対策は日本全体で考える必要があると思います。
2つ目は、海外からの新たな病害虫リスクです。ジャガイモシストセンチュウの経験からも分かる通り、対策には長い年月を要します。日本の農業を守るためには、種いもの安定供給と病害虫のリスクなく栽培できる環境の維持が不可欠だと感じています。
食卓にじゃがいもを届け続けるために
育てたじゃがいもを使ったポテトサラダがスーパーの店頭に並んでいるのを見て、どのように感じますか?
石原さん:
嬉しいですね。特に印象に残っているのは、デリア食品が企画した青果とポテトサラダのクロス販売です。POPで新品種「ピルカ」をポテトサラダに適した品種として紹介し、実際に手にとっていただけたことは良い経験でした。こうした相乗効果で品種のPRにもなり「おいしい」との声をいただけることは私たち生産者の大きな励みになります。
デリア食品の販売企画が生産者の励みになったことは嬉しい限りです。
最後に、食卓で味わうお客様へのメッセージをお願いします。
石原さん:
生産者がこだわって育てたじゃがいもが食卓に並び、作り手と食べ手が笑顔で繋がれる様子がこれから先も続いてほしいと願っています。そのために、まず100年続いてきたじゃがいも栽培の歴史を次世代へ確実に繋がなければと感じています。そのために直面している課題に挑戦し続けていきます。
取材日:2026年7月9日